概要

コンセプト:
とある山奥に佇む架空のホテルを舞台にしたストーリー仕立ての展覧会です。会場はアトリエにほど近く製作時の空気感を共有できる場所ということで兵庫陶芸美術館のコミュニティギャラリーをお借りします。

ストーリー:
とある山奥に佇む一軒のホテル。そこは通称~山猫ホテル~と呼ばれていて、たくさんの猫たちが住み着き、しばしば不思議な出来事が起きているそう。人知れぬ場所ながらなぜか予約は10年先までいっぱいで、秘密の共有ルートを持たなければ辿り着くことはもちろん門から中に一歩たりとも足を踏み入れることができません。そんな山猫ホテルが年に一度たったの一週間だけその扉を開けて一般の皆さんを招き入れます。宿泊や食事は無理ですが、ホテルの中のあちらこちらをこっそりさり気なく覗き見るくらいは許されるとのこと。さて、今年は果たしてどんなドラマに遭遇することができるのでしょう?あなたもぜひ幸運な旅人のひとりになってみてください。

構成:

山猫ホテルという一風変わったタイトルのこの展覧会はギャラリーという場所をひとつの空間作品と捉えており、ただ壁に絵を展示するだけでなく構成そのものを表現の手段として大きく活用しています。具体的に言うとそこがまるで物語の舞台であったり、あるいは舞台裏であったり、時には画家のアトリエであったりします。その構成は平面絵画のみならずさまざまな立体作品を要素としており、想像力を求めるような展示の工夫と相まって限られた空間に膨らみと奥行きを持たせています。

例えば2017年の展示では、木枠を組んだ4枚のパネルに段ボールに描いた四季の山の風景を貼り付け設置し舞台装置のカキワリのような役目を持たせました。また、コピー用紙に散文を印刷したものを展示のところどころに組み込みあたかも台本の一部のような印象を与えました。このような展示方法はこれまでのMonkieShiota の展覧会では見られず、その殆どが新たな取り組みとなっています。そもそも「山猫ホテル」という世界観が生まれたきっかけは宮沢賢治の小説『注文の多い料理店』に登場する山猫軒であり、この表題作を含む一冊の短編集を読んだことがその後の創作に大きく影響することとなりました。作品世界をキャンバスの外側まで拡げてイメージし、型に囚われない表現手段を駆使することで、独自の展覧会スタイルを築こうと試みています。それらのなかにはまだ未完成のものも多くありますが実際に形にしてみることで次の指針が明らかになるという狙いを込めて積極的に公開されています。

何より兵庫陶芸美術館コミュニティギャラリーを会場に選んだ最たる理由が自宅兼アトリエから程近い場所に位置することであり、同じく山を中心とした豊かな自然の中に在ることでした。制作と展示、双方の場における空気感をできるだけ似通わすことの必要性は過去の展覧会を通してMonkieShiotaが強く抱いた思いでした。日々の山暮らしの営みの中で感じるものを積極的に創作に取り入れる画家の作品が展示される場としてはとても自然であること、そして展覧会のイメージをアトリエにいながらにして掴みやすいことが新たな実験的試みを形にするための力添えとなっていること、これらの理由からこの場所無くしては実現しなかった展覧会と言っても過言ではありません。

陶芸美術館と言うと画家との関係性をなんとなく薄く思われてしまいそうですが決してそんなことはありません。初めてこの場所を訪れた際に目にした地元丹波焼の魅力に大いに感銘を受けたこともこの場所が会場となった主たる要因のひとつです。MonkieShiotaの代名詞とも言えるカラフルなペインティングと一見シンプルで素朴に見える丹波焼はあまり接点が無いように思われるかもしれませんが、丹波焼の持つ奥深さ、たとえば飽きることなく眺め続けられる焼肌の微妙な表情は、絵画制作に於ける色使いをさらに複雑にするためのヒントになり、また、800年以上もの長い間主に生活の器として活用されてきた丹波焼がその時代時代と共に呼吸をし続けてきたことが今日今日を生きる自分ならではの表現を何より大切にするべきとの教えになりました。

展望
「山猫ホテル」は、画家MonkieShiotaが独学で身に付けた絵画スタイルを自由奔放に駆使し、完成までおよそ10年を目安に創り上げようとしている作品世界です。最終的にはアニメーションや舞台化も視野に入れています。番外編「山犬ロッジ」も近々制作か始まります。猫と犬をテーマにした2つの作品世界に向き合うことが画家としての使命のひとつと感じるようになり、近い将来自分の絵が犬猫殺処分廃止のための何らかの力になってほしいと強く願っています。